以下は、登山をするようになって以来ずっと 『登山時の履物=登山靴』 と思い込んできた私が、今回の地下足袋富士登山体験をまとめたものです。履き方は、直接素足に地下足袋を履いているのではなく、指ごとに先が分かれている軍足を履いた上に地下足袋を履いています。コースは富士吉田口登山道・下山道。地下足袋は、ホームセンターで購入した最も安価で単純なタイプのものです。(2011/7)
体験と感想
長所
- 登山靴が何を踏んでも板を踏んでいるような感触なのに対し、地下足袋は底部が薄くて素足に近く、柔らかいので、土を踏むと土の感触が、石を踏むと石の感触、岩なら岩の感触とその形状や足の掛かり具合など、たくさんの情報が直接的に感覚的に伝わってくる。これは固い登山靴からは失われた点です。
- 足首部も柔らかく、自由に曲がるので、岩登りの際の足掛け傾斜角度への適応が楽。硬くて縛りの強い登山靴では足首が固定されるし、靴底が板のように固いので、この点が不自由で不便で違和感があった。
- 足ひとつ分も無い岩の足掛けでも指で掛けられる。足よりひと回り大きな登山靴では掛けられない岩の間にも足を掛けられる。靴底の硬い登山靴ではどこに足を掛けたらいいかと迷うような滑らかな斜面でも、イモリのようにペタペタと歩くことができる。
- 履いたまま正座ができる。これは、太ももと脛の部分の筋肉を伸ばすストレッチになり、筋肉に疲れがたまってきた頃には気持ちがいい。
- スタート時に履いたきり、ゴールまで脱げることも無ければ、小砂利が入ることも全く無かった。
- 最も単純なものなら一足\2000からと安く、登山外の通常時でも何かで使える可能性が高い。大きな石がゴロゴロしている川での遊びには、ビーチサンダルよりも地下足袋の方が向いているのでは?
短所
- 底が薄い分、クッション性に欠けるので、特に平で硬い道を歩行時に、着地の際の踵と膝に直接的な衝撃を感じる。下山時には足裏や膝を痛めないよう、常に配慮して歩いた。
- 一度濡れると乾くまで時間がかかるだろうから、防水仕様の製品が出るまでは水は避けるか、最初から濡れることを想定し、前提として考えて対処するしかない。
- 丸い石ころを局所的に踏むと足ツボマッサージのように石を踏んだ痛さがあるので、登山靴使用者ほど速くは歩けない。そっと歩く形になる。ただし、地下足袋使用者としてはむしろ逆に、頑丈な登山靴使用者の豪快な歩き方は山に対して乱暴にも思える。
- 親指の爪が圧迫されたことが気になる。
- 山頂で日の出を待つまでの間の寒さにはちょっと保温力不足。
結論 / アドバイス
購入の際には必ず試着をオススメします。実際に山で履く時と同じ条件で試着し、足に合う事が確認できたらその後はネットで購入するのが上手い買い方と言えます。
初めて履く人にはちょっとクッション性を疑われるかもしれないが、登山時の、特に岩登りの場面では間違いなく登山靴よりも使い易いと思う。柔らかくてしなやかな地下足袋は一歩毎の足場環境に敏感に適応し、足袋底はその時々の地面の形状に柔軟に適応してくれる。その適応幅は登山靴よりもとても広く、もともと持っていた足の運動能力を狭めることなく広く発揮させてくれる。素足に近い為、動きの自由度が高いと言える。
クッション性の低い点を補うには、地下足袋の下に草履を履くか、浅草で人力車を引く車夫が使う運動靴タイプの地下足袋がある。これは、マラソンシューズなどに使われているエアークッションが踵部分に組み込まれたもので、アスファルトの上を何キロも走る車夫の有力な道具の一つになっている。これならば下山道で使用する際には衝撃を吸収してくれるだろう。ただし、足袋底が厚くなるのだから、理屈上、素足からは多少離れることになるので、オススメは草履の脱着使用です。
問題は対水。富士山では水溜りを渡ることはまず無いが、雨が降ってきた場合に雨具を着ると、履物は雨具を伝ってきた雨水で確実に濡れるので、これをどうするか。軍足を脱いで地下足袋だけ履くのが良いと思うが、冷気に晒された場合は冷えやすいでしょう。
少なくとも、地下足袋での夏富士登山は可能です。そもそも登山靴のあの硬さは氷上を歩く際に取り付けるアイゼンを装着するのに必要な性質では?まずアイゼンを使わない夏の富士登山には不必要な性質と思います。